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人に頼む技術 [review]

この本は、他人と協働するすべての労働人、すべての生活人にとって示唆を受けうる内容が記されている。社会的動物である以上、どこかのタイミングで他人とコミュニケーションを取りながら数々のイシューに取り組むことがある。その際に、自分一人だけで課題を解決することが難しいが、人にアドバイスや知見を乞うことで解決に至ることができるシーンがある。ここで人に頼む技術が必要である。

もし、周りから必要なサポートを得られていないと感じるなら、それは自分の責任である。人は、自分が求めていることが、はっきり言葉にしなくても伝わっていると見なす傾向がある。心理学ではこれを透明性の錯覚とよぶ。自分が何を必要とし、どんな助けを求めているのか、他人には分からない。

他人への動機づけ

本書では、人を動かす力には大きく3種類あると述べている。それは仲間意識、自尊心、有効性の感覚である。

仲間意識

同じチームであるとか、同じ人種であるとか、何でもいいので共通項を見つけ出すことは一つのきっかけに過ぎないが、人に頼みごとをするうえで有意なフックとなることがある。

自尊心

人は、自分のことを善いとみなしたがる。誰かを助けることで自分は善いと感じることが出来そうであれば、動く

有効性

イーロンマスクが週に100時間働くのも、育児をする親が一日中子供の面倒を見るのも、それができるのは、自分の行動が現実の世界にとって有効なムーブであると信じるからである。

もし自分の行いが報われることがなく、現実に影響を及ぼすことがないと虚無感に苛まれることがあれば、有効性の感覚が失われ、酷い場合は抑うつ状態になる。

良い頼み方、悪い頼み方

悪い頼み方が以下。

  • やたら謝る...相手の同族意識帰属意識が薄れる
  • 言い訳をする...「こんなものあなたに頼むほどでもないのだけど」的な態度を表明するな。
  • 頼みごとが些細であることのアピール... じゃあ自分でやれ
  • 借りがあることを思い出させる... 「奢ったんやからやれよ」って言われたらムカつくよね

頼み方のコツは、仲間意識・自尊心・有効性の利用である。

集団への帰属意識の仕組みを理解し、いつどんなときに他社と同属であるか知ることが重要である。同属意識があるとその相手を助けようとする動機が生じる。同じチームにいる、同じ目標の実現を目指している、などの共通点の中から注目するべき事項を選択する。

自尊心をくすぐるこつは二つ。自分のものを与えることで、与えた物の価値が高まったような感覚を生じさせること。自分にしかできない、唯一無二のサポートであるという意識を高めさせること。「あなたにしかできないからこそお願いしたい」といったニュアンスをもたせることで心は動く。

有効性について。

自分が誰かを助けたことで変化を起こしたことに人は手ごたえを感じる。だから、頼みごとをするときにも有効性に訴えかける。

頼みごとによって何を得ようとしているかを伝えるようにし、感謝を伝え、助けてくれたことによる結果を知らせるようにする。

所感

ソフトウェアエンジニアにとっても有用な技術であると感じた。チーム内で知見を共有したり教えを乞う際に必要なことである。

この本を読む前から、自分自身で試行錯誤しながら会得していったことも多く感じる。自分が分からないこと・解決したいこと・実現したいことを相手に伝わるようにテキストでコミュニケーションをとる練習はアルバイトとしてキャリアを始めたころから徐々に行っていった。

エラーステートメントだけを貼り付けて「わかりません、どうすればいいですか」というのはまさにアンチパターン、透明性の錯覚である。

これまで自分がやってきたことの心理学的抽象化がなされているため、ジェネラルな技術でありあらゆる分野に転用可能であると感じた。

心理的安全性が少ないから人に頼むことができないという意見もたまにあるが、心理的安全性を担保するうえで上記で紹介した3つの要素を個々人が把握しておくことが重要であると感じる。